白山写真ギャラリー

旅人 2001/10/16

この文章は、朝日新聞石川版のコラムを5回連続で連載した際の、オリジナル原稿です。
別に書き下ろした記事「サラリーマン写真家」に合併して掲載されました。
掲載記事 2001年9月13日 金沢アンダンテ (3)サラリーマン写真家

昨年、大阪から金沢に引っ越して来ました。
そして、今更のように気がついたのは、私はずっと旅をしているということでした。

大学入学と同時に、故郷の香川県を離れ、就職してからは、味気ない会社の寮を点々としていました。
帰省するのは年に1回くらいでしたから、友達とのつき合いは次第になくなり、知らない道路や建物もできました。今では、土地の名前も方言も忘れかけています。久しぶりに帰省しても、しらじらしい疎外感を感じることが多くなりました。

そんな時に、初めて白山に登りました。大した期待はしていなかったのですが、ゆったりとした山容と麓のブナ林に魅力を感じ、それからもしばしば訪れるようになりました。同じ頃、カメラを通して山を見ると、新しい発見があり、山歩きの楽しさに深みが増すことに気がつきました。

当たり前のことですが、白山はいつも変わらぬ姿でそこにありました。時々ひどい目にも会いましたが、私さえしっかりした気持ちを持って行けば答えてくれました。ずっと通ううちに、白山を中心として、友人知人もたくさんできました。白山に行けば安心できました。

金曜日の夜から大阪を離れ、帰ってくるのは日曜日の深夜。大阪では会社で仕事をするか寮で寝ているだけです。これをほぼ毎週繰り返しました。
そして、次第に大阪で暮らしていくことに、意味を見いだせなくなってきました。

仕事を辞めることには大きな不安がありましたが、昨年、大阪の会社を退職して金沢に引っ越して来ました。

私にとって、白山は非常に大事な存在です。今はここに住んで撮りに行けることを、この上なく嬉しく思います。

といっても、私の旅はまだ続いています。と同時に、いつかこの旅に終わりが来ることをひそかに期待しています。


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