白山写真ギャラリー

写真集 白山 を上梓して 2001/03/08

今年の1月1日、念願であった白山の写真集を出版することができました。

第3回個展で、写真集出版を決め、同年行った第5回個展が終了してから、出版のための本格的な活動に入りました。
まずは出版社探しからです。

はじめは大阪の、写真集の実績の多いある出版社にあたりました。
この出版社では、色々なことを教えてもらいました。
出版には色々な形態があります。出版社が原稿料を払って、出版社のリスクで販売する方法。印刷費用と販売経費全てを著者が払って、販売委託する方法。この場合、売れなくても出版社に損はありませんが、著者は出資金を回収できません。私家版として、一般には販売せず、ごく少数だけを制作する方法。これらの中間的な方法などがあります。
また、内容が一定の水準に達していない場合は、出版社名を入れるのを拒まれる場合があるそうです。質の悪い本は、出版社の名を汚すと言うことです。
一般的に写真集は売れないもので、ほとんどの場合が、印刷費用と販売経費を著者が払って販売委託する方法になるそうです。
私の場合、写真の質は評価してもらえましたが、ローカルな白山がテーマで、景気の悪い時勢では、まず採算があわないであろうと言われました。

この出版社に任せてもいいと思いましたが、この時、私に結婚話が持ち上がっていました。
結婚を前にして思い悩むことがありました。
このまま結婚し、環境の悪い大阪で定年まで暮らして幸せだろうか。
今までのようには白山に行けなくなるだろうなあ。
そもそも、写真集など出版している場合か。
将来、私の助けが必要になるであろう両親は香川県に住んでいる。
婚約者は、金沢に住んでいる。
色々考えた末、金沢に移り住み、写真集も出版することにしました。

簡単に金沢に移り住むと言っても、転職という大きなハードルがあります。
一言お断りしておきます。私は本業を白山の写真だと考えていますが、この本業は大赤字です。生活と本業を続けるためには、収入のすべが必要なのです。
転職活動をしながら、金沢で出版社探しをしました。そして、2社目にあたった出版社で私の望む写真集を作れそうだと思いました。また同じ頃、転職先も決まりました。
そんなわけで、昨年6月に結婚、金沢に転居し、本格的に写真集の制作に取りかかりました。

通常のやり方は、予定の点数より少し多めに作品を選定してキャプションを決めたら、後は出版社まかせとなります。しかし、この方法で私の望む写真集ができるとは思えませんでした。写真家の心情を、デザイナーに完全に伝えることは不可能です。一点一点の作品を理解した上で作品集としてまとめる作業は、写真家にしかできないと考えました。写真家としての創作活動は一点一点の作品を撮っていくことですが、そうして撮った作品を一つの作品集としてまとめることもまた創作活動であり、別の価値があることだと思います。

そこで、DTPソフト(印刷原稿作成用ソフト)を手に入れ、自分でデザインすることにしました。こういった事は前例がなかったようです。出版社の担当者は最初はとまどっていたようですし、素人でまともなものを作れるはずがないとも考えていたようです。しかし、私も印刷やデザイン手法を勉強・研究しましたし、様々な人にデザイン中の原稿を見せて意見をもらったりしました。
一時は、出版社案と私のデザインが平行して進んでいたのですが、最終的に私のデザインを通させてもらいました。この点では、出版社の方に大変な無理をお願いしたと思います。
発行日は昨年の夏山シーズンに定めていたのですが、こんな事をしているうちに秋も過ぎてしまいました。それならばということで、発行日を新世紀の最初の日、2001年1月1日に設定しました。

写真集の制作で、最初に決めなければならないのは、その写真集のコンセプトです。つまり、その写真集を通して、どんな人に何を伝えたいかということです。初めは私にはこのことが良くわかっていませんでした。作品を漫然と並べたデザインをして、色々な人に見せましたが、それぞれ反応が違います。これは、人によって自然観、知識、登山等の経験が異なり、私にとって価値のある写真でも、それを理解できる人とできない人がいるからです。ですから、このコンセプトを明確にしないと、誰に対しても中途半端なメッセージしか送れない、人の心を動かすことのできない写真集になってしまいます。

私の設定したコンセプトは次のようになります。
・白山を広く紹介するものではなく、私個人と白山との関わりを伝える。
・写真そのもので評価を受ける。
・この写真集が、白山に対してより深く興味を持つきっかけになる。
・白山と自然を、知れば知るほど価値が高くなる。
これらのコンセプトを元に、作品の選定、レイアウト、キャプションのまとめ方を検討しました。これが成功したかどうかは、今後、自然とわかってくることでしょう。

たかが一冊の写真集ですが、出版までには色々なことがありました。
次は、写真集のあとがきから抜粋した文章です。
長く白山に対峙してきました。白山にこだわり知れば知るほど、さらに深く白山を理解したい、真の姿を捉えたいと思ってのことです。私は白山を撮り続けることによって、登山技術はもちろん様々なことを学び、成長しました。また、多くの人と出会うことができました。そうして白山は、私にとって欠くべからざる存在になりました。編集作業では、よく撮ったなあという思いとともに、改めて自分の小ささを感じることになりました。ともかく、この写真集を一つのステップとして、これからも白山にこだわり、自分なりの表現を追求していこうと思います。

少しでも多くの人に、この写真集を見てもらいたいと思います。


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